ホーム > 診療科目 > 日本小動物がんセンター > 犬と猫のがん、その正しい知識
3人に1人がかかる可能性があるといわれている癌は、私たちにとって怖い病気であることはまちがいありません。もちろん愛犬・愛猫にとっても癌の怖さは人間と変わりません。米国の研究では犬や猫の死因のトップに癌があげられており、犬の場合は約2頭に1頭が、猫の場合でも約3頭に1頭が、癌で死亡すると報告されています。
愛犬・愛猫とできるだけ長い時間を楽しく過ごしたいというのは、ご家族様の共通の願いですね。
そこで今回は癌という病気をしっかり知り、早期発見のために心がけたいことなどを考えてみましょう。
怖い病気であるというイメージはあっても、癌がどのような病気であるのかを知っている方は意外に少ないのかもしれません。癌細胞とは自分自身の増殖をコントロールできなくなり、かつ転移を引き起こす可能性を秘めた細胞のことです。良性と悪性という言葉をよく耳にしますが、良性腫瘍とは転移をしないもの、そして転移をする腫瘍が悪性で、一般的に癌とよばれます。
人間と同じように犬や猫の場合も癌は、中・高齢で発生する確率が高くなる病気です。また、ゴールデン・レトリーバーは癌で死亡することが最も多い犬種であると報告されていますので、特に注意が必要です。
次に雄、雌に分けて特徴的な癌を考えてみましょう。これらの多くは去勢・避妊手術によって予防することが可能なのです。
雄犬に発生する代表的な腫瘍として、精巣腫瘍、肛門周囲腺腫、前立腺癌があげられます。
精巣腫瘍は未去勢の雄にのみ見られる病気です。
犬の精巣腫瘍は転移する可能性が低く、多くが外科手術で完治します。猫の精巣腫瘍に遭遇することは比較的まれなため、その挙動はよく分かっていません。左右の精巣の大きさが極端に異なっている場合や精巣の表面がデコボコしている場合は、精巣腫瘍の可能性を考える必要があります。
同じく未去勢の雄犬に多いのが肛門周囲腺腫です。これは良性腫瘍ですが、便が出ずらくなったり、腫瘍表面から出血をしたり、愛犬にとってはかわいそうな病気です。やはり去勢によって予防することが可能と考えられています。
前立腺癌の発生率は低いのですが非常に転移率が高く、多くが発見から数ヶ月以内に死亡してしまう怖い病気です。前立腺癌は、残念ながら去勢によって防ぐことはできません。
雌に特徴的な腫瘍として乳腺腫瘍、それから子宮や卵巣の腫瘍があげられます。
犬の場合、2回目の発情前に避妊手術をしてしまえば、かなり高い確率で乳腺腫瘍の発生が防げることがわかっています。また、猫の場合も1歳になる前に避妊手術をすれば、乳腺腫瘍を予防する効果があることが最近報告されました。
あたりまえのことですが、子宮や卵巣の腫瘍は、雄の精巣と同じように、癌にかかる前に子宮や卵巣を切除してしまえば心配はなくなるわけですね。避妊手術では一般的に子宮と卵巣の両方を切除しますが、獣医師によっては卵巣だけをとる場合もあります。
以上のように癌の予防という点から考えれば、去勢・避妊手術は、できるだけ早い時期に行うことが望ましいとも言えます。しかし赤ちゃんをつくらせてあげたいなど、さまざまな事情があるでしょう。去勢・避妊手術の時期については、愛犬・愛猫ができるだけ若いうちにホームドクターとしっかりと相談して決めるようにしてください。
癌には数百もの種類があります。残念ながら、去勢や避妊手術によって予防できるのは、そのうちの一部に過ぎません。しかしできる限り癌という病気から愛犬・愛猫を遠ざけてあげたいものですね。
癌に対してもっとも有効なのは早期発見であることは、愛犬・愛猫でも同じことです。ここでは早期発見に役立つ、愛犬・愛猫が見せる危険なサインについて、犬と猫に分けて考えてみましょう。
犬の場合はさまざまなサインがあります。体表にできものができた場合は皮膚癌である可能性があります。外見からはわからないこともありますから、日頃から愛犬の体をさわってあげるようにしましょう。雄の精巣の大きさが左右で異なっている場合は、癌の可能性が高いことはカルテ2でも説明しました。また中高齢でみられる鼻血も(特に片方の鼻から)、癌の可能性が高いと考えられます。このほか、けがをしたわけではないのに突然跛行する(片足を引きずるように歩くこと)、膀胱炎を繰り返す、血便を繰り返す、多飲多尿(水をたくさん飲んでおしっこをたくさんすること)が続く場合などは、悪性腫瘍、つまり癌によってこれらの症状が引き起こされている可能性を考慮する必要があります。できるだけ早く動物病院に連れて行き、精密検査を受けるようにしてください。
猫の危険サインは体重の減少です。食事の量を減らしていないのに体重が1割減少したら、体のどこかに異常があると考えるべきでしょう。2割の体重減少は、自力で回復できるかの瀬戸際とよべるほどの大病の可能性あります。できるだけ早く動物病院に連れて行きましょう。
しかし1割程度の体重の減少では気づかないご家族様も多いのです。たとえば体重が4kgの猫だとすれば、減少するのはたったの400gなのですから。人間用の体重計で測ろうとすれば、400gは誤差の範疇に入ってしまうかもしれません。できれば新生児計測用の体重計など、誤差ができるだけ少ない体重計を購入して、可能な限り正確な体重を頻繁に計るようにしてあげてください。
体重の減少は犬の場合でも、さまざまな病気のサインである場合が多いことも覚えておきましょう。
最後に食生活について。これは癌に限らず健康を守るために必要なことですが、毎日きちんとした食事をとることが大切です。つまりおやつなどでお腹をいっぱいにするのではなく、総合栄養食など、それぞれの愛犬・愛猫に必要な量の食事をしっかりとることです。かわいいからおやつをあげすぎてしまうのではなく、食事とおやつのけじめをつけて、愛犬・愛猫の健康をしっかり管理してあげてください。