JSAMC日本小動物医療センター

科長インタビュー

ホーム > 診療科目 > 科長インタビュー

検査 科長 高木 茂

検査科とはどのような科でしょうか?
一般の動物病院では血液や尿の検査、細胞診などについて、多くは獣医師もしくは動物看護師が臨床の業務の最中に行っていますが、人の場合は採血をしたら検査部門でその検査が行われます。当センターは人の病院と同じようなシステムで、診療と検査を切り離し、検査科として独立して検査を行っています。
検査科には病院の中の検査を行う臨床検査部門をメインとし、病理診断をしていただく専門の先生と一緒に仕事をする病理部門、遺伝子検査に関わる分子生物部門の3つの部門があります。
検査部門を独立させるメリットは何でしょうか?
臨床と検査を切り離す利点は、最新の技術や知見を取り入れ検査自体のクオリティを維持、向上できること、そして検査する項目数やアイテム数を増やし、受託できる検査の幅を広げていけることです。それでも院内ではできない検査もありますので、検査センターなどの施設に外注することもありますが、その際には検査科が窓口となり、検体を適切に処理して送付し、結果を担当の診療科に戻しています。単に発注するだけでなく、外部の検査施設と情報を共有することで、より精度の高い結果が得られるような方法の探究もしています。このように、検査にまつわるあらゆる業務を行っているのが検査科です。
検査の精度を上げるために気をつけていることはありますか?
検査科の業務は、他の診療科に比べるとマニュアル化しやすいものです。マニュアル化しやすい一方で、症例ごとに柔軟に対応していくことが求められます。個々の症例に合わせて検体を扱い、各処理が検査結果にどれほど影響をするのかを把握していなくてはなりません。外注する場合には、どの検査センターでどのような検査をしているか、検査の精度が高いのはどこか、時間はどのくらいかかるのか、検査費用はどのくらいなのかといったことを検討し、担当医やご家族様の方の要請に合わせて適切な外注先を選んでいきます。
また、昔と比べると今は動物用の検査機器も増え、機械がやってくれる部分がとても増えてきています。人が手を動かす部分が減ってきているので、多くの人が関わりやすい仕事になってきているとも言えます。ただしそこで重要となってくるのが、機械が出した検査結果をそのまま獣医師に渡していいかどうかを判断するという役割です。その部分は人でしかできません。どんなに精度が高いとしても、100%常に完璧とは限らないからです。
検査結果によっては診断にも影響を及ぼしかねませんし、検査のために体に負担をかけて採取した検体を決して無駄にしないよう、常に万全を期すようにしています。
検査科がある動物病院は少ないのでしょうか?
動物病院全体数からすれば少ないですが、当センターのように二次診療を行っている施設では、検査を専門とする部門があるところが増えてきています。獣医師が検査のために時間を使うならば、それは検査部門に任せ、そのぶん診療に専念するほうがいいという考え方です。検査や看護など、それぞれのコメディカルのスタッフが専門性を高めることは獣医師の業務に貢献するばかりでなく、動物やご家族様の方への貢献にもつながっていきます。人の医療現場と同じです。
ただし、人の医療分野では臨床検査技師という資格がありますが、動物の分野にはそれに該当するものは現在のところありません。動物の専門学校などにも検査を専門としたコースはありませんし、検査の授業は必ずあるもののコマ数が少ない状況です。なかなか動物の検査というものに興味を持ってもらいにくい状況とも言えます。
そのような中で検査に興味があるという方に伝えているのは、検査業務は動物看護師や受付と違い、動物を直接触ったりご家族様の方と直接コミュニケーションを取ったりすることがないため、動物やご家族様の方に直接貢献しているという実感がわきにくいところがあるということです。目の前に動物がいる環境での仕事ではありませんが、検査は診断や治療などに大きく影響する重要な業務で、プライドを持って取り組める、とてもやりがいのある仕事です。
獣医療域の検査の世界に入ったきっかけは何ですか?
私自身この仕事に携わるようになったのは25年ほど前のことで、最初は動物の検査センターに勤めていました。
大学時代には微生物を専門に勉強していて、当時は中学の理科の先生になりたいと考えていたのですが、大学を卒業する前に、動物の検査センターでアルバイトを始めたのです。“最低限、高校レベルの生物や化学が分かる人”という条件から、これは単に検査器具の洗い物をするだけではなさそうだ、面白そうだと思いまして。そもそも動物専門の検査センターがあることすら知らなかったのですが、実際にアルバイトを始めてみると自分の知らない分野だったこともあり、とても興味深い仕事だと感じました。そして卒業後にそのままその検査センターに就職することにした、というのがこの仕事を始めたきっかけです。
それから13年ほどそのセンターで働いていましたが、縁がありまして、当センターの立ち上げのときからこの検査部門で業務を始め、現在に至っています。
今後の抱負をお聞かせください
検査の精度を上げていくことはもちろんですが、一番は人材の育成ですね。動物と直接触れ合う仕事がしたいという思いでこの世界に入ってくる人が多いのですが、検査に特化した仕事にやりがいや魅力を感じられ、そこに価値を見出せる人を育てていきたいです。獣医師と動物看護師だけが動物病院の仕事ではないということをもっと広く知っていただき、動物の検査のスペシャリストを目指したいと思う人が増えていくよう付加価値も高めていきたいと思っています。

(写真と記事:尾形聡子氏)

ページトップへ