- カウンセリング部ではどのようなことをされているのでしょうか?
- メインの業務は、がんセンターに来院されるご家族、特に初診の方の不安を和らげることです。当然のことですが、一次診療よりも二次診療の方が重篤な病気の患者さんが多く、完全予約制でもありますので、ほとんどのご家族はナーバスな状態で来院されます。初診の受付段階からすでに緊張されている方がほとんどですので、今日の診療の流れを説明したり、診察が終わった後に“今日はいかがでしたか?”と声をかけています。もちろん、ご希望があれば1対1でのカウンセリングも行っています。カウンセリング部を独立して置いているのは、直接診療に関わる担当獣医師や動物看護師から少し離れた第三者のほうが、ご家族は悩みを相談しやすいと考えているからです。
- 主にがんセンターに通院されるご家族のケアを行っているのには理由があるのですか?
- がんと診断された段階で、もはや手立てがないという時代もありましたが、今や獣医療も進み、様々な治療法が存在します。動物の世界でも、人と同様、がんと共存していく状況になりました。人でのがんの闘病を想像していただければ分かるように、動物の場合でも、治療の過程でいろいろな状況にぶつかります。特に患者である動物に代わり、治療について決定していく必要のあるご家族は、本当にこの治療が愛犬・愛描にとって良いものかと悩んだり、家族間で意見が合わなかったりすることがあります。皆さん、それぞれに深い想いを抱えていますので、個別にゆっくりお話を聴くことが多くなります。
- なぜ動物病院でカウンセリングを行いたいと思ったのでしょうか?
- 獣医師免許は持っていますが、臨床には進まずに動物や獣医師関連の出版社などで働いていました。以前から、仕事とは別にあるNPOに所属し、ボランティアで電話相談を行っているのですが、そちらの勉強がしたくなり、カウンセリングの学校に通っていいました。ちょうどそのころ、ニューヨーク・アニマル・メディカルセンターに勤務するソーシャル・ワーカーが来日し、動物病院でご家族のケアに携わっているという話を聴き、私のスキルを獣医療でも役立てられるものと思いました。そこで、動物病院でカウンセリングを行いたいと様々な人に声をかけていたところ、米国の獣医療に通じているがんセンターの小林先生の耳にも達し、現在にいたります。日本では前例がなかったため、実際にどのような形でご家族と関わっていくかについては、小林先生をはじめ、がんセンターの獣医師とともに試行錯誤を重ねながら進めてきて10年が経とうとしています。
- グリーフケアもされているのですか?
- もちろん、ご希望があれば行っています。しかし、当センター亡くなったり、長い期間通われていた方などは、センターに来るだけでも非常に辛いこととなります。ですので、個人的には動物病院でのグリーフケアは難しいと考えています。大切な家族である犬や猫が亡くなって「もっと何かできたのではないか」という思いを抱く人は多いものです。しかし、納得したうえで治療を受け、看護を続けてきたご家族は、喪に服する期間が長引かずに済むように感じています。そのために、通院時からスタッフとともに私もサポートしていき、少しでも喪失感を和らげる手助けができればと考えています。
動物への獣医療的なケアだけではなく、ご家族の精神的ケアも非常に大切だと思っています。ご家族は、今ここで愛する犬や猫と一緒に居られるという幸せをじっくり味わうことよりも、あとどのくらい一緒に居られるのだろうという不安に飲み込まれてしまいがちです。それはある意味当然のことですが、ご家族の気持ちは動物たちにかなり反映されます。動物たちは今の瞬間を生きています。そのため、とにかく今一緒に居られるという幸せをどうか存分に味わっていただきたい、そう強く願っています。 - 今後どのようなカウンセリングをしていきたいとお考えでしょうか?
- ご家族が感情を出しやすい場でありたいと考えています。病気を抱えた動物と暮らしているご家族は、様々なストレスを抱えています。それを内に溜め込まずに外に出すことが、自分自身、また患者である動物たちのためにも大切になりますので、話しても良いのだと感じていただけるような対応を心掛けているつもりです。二次診療の動物病院は、たとえ不安や不満があっても簡単に転院することができません。そういう面からも我慢をしなくてはならない可能性が高くなるとも言えます。どこかで吐き出していかないと、病院と長く付き合っていきにくくなるとも思っています。
また、精神的な緊張は知らず知らずのうちに身体にも現れます。ご家族がそのために体調を崩されないよう、身体の強張りもほぐせるようなお手伝いも将来できればと思っています。 - 皆さまへ向けてメッセージをお願いします
- 当センターに紹介してくださった患者さんご家族について、精神的なサポートが必要な場合には、当院への通院が終了した後でも対応させていただきますので、気軽にご相談いただければと思います。また、ご家族の方々は、不安なことや心配事がありましたら、遠慮なさらずに気楽に声をかけていただければ嬉しく思います。
(写真と記事:尾形聡子氏)