JSAMC日本小動物医療センター

科長インタビュー

ホーム > 診療科目 > 科長インタビュー

皮膚科 科長 村山 信雄

皮膚科ではどのような診療をしていますか?
犬や猫の皮膚のかゆみや脱毛など、なかなか治癒しない皮膚の症例を主に診療しています。外耳炎などの耳の症例についてはCTやMRIで検査をして、内科的な治療にするか外科的な治療にするかを判断します。必要があれば外科で手術を行えるよう、一貫して診療ができる体制をとっているのが長所です。耳を手術するときはかなり化膿していることが多く、脳が近く神経がたくさん走っている場所ですので、慣れていないと難しいケースが多々あります。その点で、当センターの外科には耳の手術に優れた獣医師がいますので、安心してお願いすることができます。
また、腫れ物が炎症なのか腫瘍なのか分からないといった症例がある場合、皮膚科と腫瘍科とでのやり取りもスムースに行えるのも一貫診療体制をとる総合病院ならではのいい点です。
アジア獣医皮膚科専門医とは?
日本でアジア獣医皮膚科専門医として認定されているのは、私を含めて現在6名です。専門医制度は、アメリカに始まり、ヨーロッパ、オセアニアという地域単位で認定される仕組みになっているのですが、最近になってアジアでも制度が開始されました。専門医を取得するには試験に合格しなくてはならないのですが、その試験のレベルは世界共通になるように考えられています。地域によって専門医制度の歴史の長さが違いますのでシステムの成熟度は異なるかもしれませんが、基本的にどこでも知識や技術といった教育内容は同じになるようにされています。
なぜ専門診療として皮膚科を選んだのでしょうか?
大学卒業後、最初は大動物を診療していたのですが、もともと犬や猫に興味がありましたので、数年後に一般の動物病院に移りました。ちょうどその頃は、さまざまな知識や技術が海外からどんどん入ってくるようになった時期でした。そのような状況を見るに、すべてを網羅することは無理だと思ったのです。また、私自身、物事をじっくり考えていくプロセスが楽しいと感じる性格でもあることから、皮膚というものに強く興味を引かれ、専門として選ぶことになりました。
皮膚の病気はどのようなプロセスで考えていくのでしょうか?
皮膚専門獣医師は、物事を三次元で見ようとするという特徴があると思います。皮膚の表面の状態だけでなく、その下で何が起こっているかを考え、さらにそれが起こっている原因を考えていく、というような見方です。皮膚科にのめり込めばのめり込むほど、そういう傾向は強まっていきますね。
とはいえ目の前にあるかゆみや発疹をなくしていくといった対症療法はとても大事で、ほとんどの症例がそれにより日常生活を送れる状態に治癒していると言えます。私たちが診療するのは、対症療法では治らなかったというケースです。そのような症状になる原因として、病気そのものが非常に重症である、原因が多岐にわたる、教科書に載っていないような現症が起きている、という3つのことが考えられます。
たとえ病名はつかなくとも、病態がより詳しく分かれば、それに対する治療もより細やかに行うことができます。皮膚病は経過が長いことが多いですから、経過が長い分だけご家族様の方に継続してお付き合いしていただかなくてはなりません。そのようなこともあり、原因が知りたいといって来院されるご家族様がとても多くいらっしゃいます。
最近増えていると感じる皮膚病はありますか?
犬の耳の病気を紹介されることが多くなっています。耳の中を覗くための内視鏡が出てきて、耳の中を客観的に評価できるようになったことと、CTやMRIの断層撮影でどこまで何が起きているのかが分かるようになったというのが大きく、耳の学問もどんどん進歩しています。
また猫のかゆみに関しても来院するケースが少し増えています。家の中でずっと過ごすなどといった生活環境も多少影響しているのかもしれませんね。
特に相談して欲しい症例はありますか?
「どういう症例だったら紹介していいですか」と聞かれることがよくありますが、基本的にはその先生が判断に悩むときが紹介いただくタイミングではないかと思います。どのような症例だから、重症だからというような見方ではなく、診断に迷う、なかなか治らない、ご家族様の方の意向に十分沿えない、この検査だけして欲しいなどといったような状況になりましたら、ご家族様の方に専門診療があることを提案し、その上で紹介していただければと思っています。病気そのものも複雑になってきていますので、以前に比べると治しにくくなってきているという現状でもあります。
今後どのような診療をしていきたいとお考えでしょうか?

少しでも多くのご家族様の方、そして犬や猫が満足できるような治療をしていきたいです。経験を重ねていくことで知識や技術の幅を広げていきたいと常に思っています。技術といっても何か特別な道具を使えますということではなく、ご家族様の方の目線に立ち、それぞれのニーズにしっかり対応していけるような知識や技術ですね。

究極的には、お金をあまりかけられないので、ここまでの金額で治療をして欲しいという要望にこたえていけるかを考えることが専門医としての役目のひとつであり、それを実際に行うことができる学問が皮膚科だと思っています。
皆さまへ向けてメッセージをお願いします
動物病院の先生方には、何か気になることがありましたら遠慮なく率直にご相談いただければと思います。ありのままには言いにくいことがあるかもしれませんが、ご自身で敷居を高くしてしまうようなことをする必要はまったくありません。ご家族様の方にも、治療中など分からないことがありましたら何でも聞いていただきたいです。
これは言ってはいけないのではないか、これは言わない方が妥当なのではないか、ということは無しにしていただき、分からないことや、言いたいことはそのまま伝えていただきたい、そう思っています。そうすることでよりよいコミュニケーションがとれるようになり、犬や猫が治るきっかけが広がると考えているからです。

(写真と記事:尾形聡子氏)

ページトップへ