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ご家族様は見ている

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その先の獣医療へ 話すも聴くも技術です

中森あづさ(日本小動物医療センター カウンセリング部部長)

ご家族様は見ている

言葉と態度は一致しているか?

あなたの病院では、飼い主を診察室に招き入れる時にどのように声をかけているだろうか。「○○さん」?「●●さま」?それともペットの名前で「○○太郎ちゃん」?

最近では、人の医療現場でもわれわれ獣医療臨床でも、以前では考えられなかったほど、敬語が使われるようになった。医療者=強者>患者=弱者といった力関係が、より対等になったことを示す1つの例ともいえるが、その敬語、使う側も使われる側もなんとはなしに居心地の悪さを感じることはないだろうか。

例えば「○○さま、お宅のココちゃんの細胞を検査した結果、良性であるとわかりました。よかったですね」と伝える獣医師は、顔をあげることもなくカルテを見たまま、また言葉は丁寧だが全く抑揚を欠いているとする。この場合、飼い主は本気で喜べるだろうか。「ほんとかしら?結果に自信がないのでは」とかえって不安になることもある。
どうしてか?
それは、獣医師の言葉と態度が一致していない「ダブルメッセージ」を与えているからなのだ。

よくコミュニケーションやスピーチ、プレゼンテーションの方法について語られる時に持ち出されるものとして、メラビアンの法則(the rule of Mehrabian)がある。そんなもの聞いたこともないと思う人でも、言葉による情報(話の内容)で伝わるのは7%、話し方(声の大きさや抑揚)では38%、ボディ・ランゲージ(視線や動作、外見)では55%、なのだから言葉ではない部分、非言語的(ノンバーバル)コミュニケーションを大切にしなさい、という話はどこかで耳にしたことがあるのではないだろうか。

この法則は、もともとの実験結果が曲解されて生まれたものだが(ちょっと考えれば言葉で伝わることが7%だけなんてあり得ないでしょう)、ここから読み取るべきは、言葉だけでなく、それ以外の部分にも人はしっかり目を向けているということなのである。
それこそ「ではチャコちゃんの手術は私、獣医師の○×△が担当します」と小さな声で早口、しかも飼い主と決して目を合わせようとしないで伝えられるよりも、同じ内容をゆったりと、飼い主の目を見ながら自信のある態度で言われたほうが、誰でもが安心できるだろう。たとえ、外科的技術は同レベルでも、飼い主がどちらの獣医師に信頼を寄せるかは明らかである

非言語的コミュニケーションを意識する

では、非言語的なコミュニケーションにはどのようなものがあるのだろうか。目から入る情報としては、視線や表情、姿勢、動作、距離のとり方や体の向き、さらに服装や診察室(待合室)の雰囲気などが考えられる。また、耳から入るものとして、声の大きさや速度、調子、明確さ、間のとり方などがある。
つまり、飼い主は獣医師の言葉だけでなく、これらの非言語的な情報からいろいろなメッセージを受け取ることとなる。最近の医学部では、医療面接として、模擬患者(SimulatedPatient:SP)と医療者(学生)がロールプレイの演習を通じ、患者と良好な関係を築き、患者への問診やインフォームド・コンセントを適切に実施できるように構成された授業が展開されるようになってきたという。このような流れを獣医学教育にも取り組もうとしているのは日本獣医生命科学大学の鷲巣月美先生らである。

彼らは、まずSPの教育から始め、それこそ獣医師(およびその卵)たちの髪型や服装、歩き方までを手弁当で指導するために、時間と労力がかかり、1〜2年に1回程度しか実施できないとも聞いている。しかし、こうした取り組みが獣医師の世界でもなされつつあることは大変喜ばしいことだろう。なお、私の勤務する動物病院では、もっと簡略化したものとして、動物病院スタッフが飼い主役となったロールプレイ演習を、昨年末より定期的に行うようになった。
まだ数回行っただけではあるが、ロールプレイ後の振り返り(シェアリング)において「『がん』という言葉ではなく、『しこり』や『腫瘍』という言葉の言い回しでネガティブさを回避したほうがよい」、「続けて話すのではなく、間をとりながら話すとよい」などのさまざまな声があがってきている。ロールプレイを実施することの大きな利点は、実際に獣医師役/患者役を行うことによって自分の癖や飼い主の気持ちを、他人から指摘されるのではなく自分自身で見つめなおすことができることといえる。自分で気づくことが、まず変化への第一歩となる。もちろんロールプレイの実施には、全体の流れの管理や、スタッフ同士交流しやすい環境の設定などを行うファシリテーター(アドバイザー)が必要となるために、どこでも簡単にできるものではないが、機会があればぜひ一度経験してみて欲しいとは思う。

なお、臨床現場で簡単に(?)トライできて、とても有効と個人的に感じている方法は、「話しの速度を変える」ことである。
自分が早口であると思う人は、ともかくゆっくり話すことを心掛けよう。
そして、飼い主の話す速度に合わせることも大切なポイントとなる。
飼い主が言葉を選び、かなりの間をとりながら話す人ならば、私もいつもの半分くらいのスピードで話す。
また、もちろん逆の場合もある。飼い主が興奮している、怒っているなどの場合は早口になりがちであるが、その際には同じように早口になるのではなく、あえてゆっくり話すよう努める。だんだんと飼い主自身が落ち着いてくるきっかけとなるはずである。

冒頭に触れた医療現場での敬語の使い方については、国立国語研究所の吉岡泰夫氏が興味深いレポートを発表しているので、参照してみてはいかがだろうか(http://www.plamed.co.jp/activity/forum/w3.html)。そのなかで吉岡氏は、患者に「〜さま」を使うのは過剰敬語になると指摘していることをお知らせしておく。

今回のまとめ

「ダブルメッセージ」を与えないために、非言語的コミュニケーションを意識しよう。

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