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科長インタビュー

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循環器科 科長 岩永 孝治

循環器科ではどのような診療をしていますか?
主に心臓の超音波検査で病気の診断をします。超音波検査では心臓の中を見ることができ、動きもリアルタイムに分かります。さらに、血液の流れや速度、タイミングも分かりますので、心臓のポンプとしての機能を把握することができます。心臓の超音波検査ではほとんどの心臓病を診断できるのですが,他の検査よりも熟練を要するものであり、誤診や見逃しが多い検査でもあります。循環器科では循環器疾患を超音波検査により正確に診断し、その病態に応じた内科治療を行なっています。
診断がつかなくて診療にくる心臓病としては、犬と猫のどちらが多いのでしょうか?
犬は弁膜症、猫は心筋症が多いです。ここ最近の傾向としては比較的若い猫が増えてきています。犬は高齢の小型犬が多く、後天性の僧帽弁閉鎖不全症と診断することが最も多いです。当センター附属のがんセンターに来院するがんに罹った犬の多くも高齢であるため,僧帽弁閉鎖不全症を併発していることがよくあります。そのような犬を診療することも多く、CT検査における麻酔や手術前の麻酔が可能かどうかを判断することが多いところが他の施設と少し違うところです。
人で言うところの生活習慣病から来るような心疾患は動物にもあるのでしょうか?
人のように、虚血性心疾患などの病気を発症するというのは、犬や猫では滅多にありません。全般的に、人の生活習慣病のような心臓病は動物には少ないと言えます。
なぜ心臓を専門に選んだのでしょうか?
技術を仕事にしている職人に憧れていました。動物が好きだったこともあって友人から勧められて獣医師という職業を選んだのですが、そうして選んだ獣医師という職業の中でも、さまざまな診療を幅広く浅くやるより、専門医として一つの科を集中して深くやりたいと思い、大学5年生時には動物の循環器専門医を目指していました。獣医療にもいろいろな診療科がありますが、その中で循環器科を選んだのは、心臓の超音波検査は他の画像診断よりも難しく、検査者の個々の技術が必要であり、超音波を通して動く心臓をリアルタイムでみて診断できることがとても魅力的だったことが大きいです。卒業論文では心臓超音波検査をテーマに研究を行いました。卒業後の最初の2年間は大学で研修医として全般的な診療の経験を積み、その後は医学部の大学院で循環器の基礎研究を学び、それから後はずっと循環器内科を専門として診療を行なっています。
心臓超音波検査ができるかどうかで動物の循環器内科医としてやっていけるかどうかが決まってくると思います。超音波検査は機器こそ多くの動物病院にありますが、心臓の検査は簡単にできるものではなく、職人技的な側面もあります。心臓超音波検査はその経験をたくさん積めば精度の高い診断ができるようになってくると思いますが、たくさんの経験を積む環境を作るには、思い切って循環器を専門でみると決めないと難しいです。超音波検査はやればやるほど診断精度が上がっていくものと考えていますので、私自身もさらに経験を積んでいきたいと思っています。ひとつのことをずっとやっていて飽きない性格なのも、専門診療に向いているのかもしれません。
特に相談して欲しい症例はありますか?
心臓の病気で困った症例がありましたら、なんでもご相談いただければと思います。または、これは本当に心臓病だろうか?と、心臓病疑いがある場合もあると思いますが、そのようなケースでは除外診断もいたします。
今後どのような診療をしていきたいとお考えでしょうか?
循環器診療をもっと発展させていきたいと思っています。それには、まずひとつに、自分の診断技術を上げていきたいです。先ほどもお話ししましたが、超音波検査はやればやるほど精度を上げていくことができます。また、循環器診療のそのものも進歩させていたいです。10年前の診療と今の診療が違うように、今行っている診療スタイルは、10年後、20年後にはおそらく古いものとなります。その代わりに、よりよい診療方法が出てくると思うのですが、その新しい診療方法を自分でも見つけていければと考えています。また、しっかり後進を育てていき、層の厚い体制で診療ができるようにしていきたいです。海外でも動物の循環器専門医は少ないのですが、日本ではごくわずかしかいません。しかし、心臓病に罹る犬や猫は多いので、もっと循環器の専門医を増やしていく必要性を感じています。
皆さまへ向けてメッセージをお願いします
動物病院の先生方には、心臓の病気でお困りでしたら遠慮なくご相談いただきたいと思っております。
心臓病はかなり悪くなってから、息が切れたり、咳が出たりといった症状が出てきます。酷くならないと外から見てもほとんどわからない病気です。病院では、問診や一般身体検査,血液検査などでなんらかの異変は気づかれやすいので、かかりつけの病院での定期的な検査を受けることをお勧めします。

(写真と記事:尾形聡子氏)

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